2016年05月11日 09:58

音楽を聞きながら勉強はできませんから

 NHKの「トットてれび」というドラマが面白くて見ています。もちろん録画視聴です。

 ドラマの中で、向田邦子が中華料理店の喧騒の中で執筆しているのですが、普通の人はああいうことはできないと、一応断言しておきます。

 面談などで、「音楽を聞きながら勉強しているんですけれども、これってどうなんですか」といったお話を伺うことがあります。

 「あり得ません。絶対ダメです。」というのが私の答えです。

 常々このようにお答えしていたのですが、先日、あろうことかうちの息子が音楽を聞きながら勉強していたことが発覚しました。

 ああ、何たる不覚。灯台下暗しとはこのことですね(^^;

 念のために何で音楽を聞きながら勉強してはだめなのか、ご説明しておきます。

 音楽を聴くという行為ですが、これは結構脳の能力を使うことなのです。

 音楽は、記憶の芸術です。

 楽曲は、どれも何らかの構造を持っています。構造というのは、音楽でいえば、始まりがあって、膨らんで、終わりがあるといったことです。

 主要なリズムがあって、メロディがあって、その変奏があって、それらが組み合わさり、そして終結へという構造を、普通の音楽は持っています。そうでなければ、意味不明な音の羅列になります。

 で、音楽を聴くという行為は、音源から伝わる空気の振動から、上に述べたようなリズムですとかメロディですとかを聞き取って、ああ、これがここでかぶさるのかですとか、これはあれの繰り返しだなとか、そういった形式を頭の中で再構成させることなんですね。

 音を頭の中で構成させる、それが音楽を聴くという行為です。頭の中で構成するためには、音を記憶していかなければなりません。だから記憶の芸術と申しているのです。

 かようにして、音楽を聴くというのは、本来非常に頭を使う行為なのです。勉強しながらできる行為ではないのですよ。「音楽を聞きながら勉強する」ということですが、脳の能力というところから考えると、両立は不可能です。

 もしそうしていると言うがいるのであれば、その実態は、ただ単に音楽を聞くことも勉強をすることもどちらもいいかげんであるというだけのことです。アーティストに対しても失礼です。

 音楽を聞きながら何かする習慣があって、その延長で勉強中も音楽をかけたがる人もいるかもしれませんが、そういう「貧乏くさい」ことはおやめなさいと申し上げておきます。こういうことをする人は、時間の貧乏人だと思います。

 勉強するときは勉強に集中する、音楽を聞くときは音楽に集中する、そのほうが同じ時間の過ごし方でも、より豊かなものになりますよ。

 それで、最初に紹介した向田さんですが、たしかに、いろいろな音が流れている中でもできる勉強っぽいことは存在しますよね。

 私は、こうして文章を書くときは音楽は一切かけません。ほとんど誰とも話しませんし、テレビやラジオなんかも当然つけません。そうでないと私の脳の力では書くことができないからです。

 しかしながら、例えば事務仕事で数字を打ち込むとか、物を整理するとかいったことは、ちゃんと聴けているとは言いがたいですが、音楽を流したりラジオをつけた状態でも、できないことはないです。

 たぶん、それほど脳の力を使う必要のない、段取りがほとんど自動化されているような作業については、周りで音楽が流れていようが、大声でしゃべる人がいようが、できないことはないということなのでしょうかね。

 向田さんが、テレビがつけられ、他のお客さんがそれを見て騒いでいるような中華料理店で原稿の執筆ができていたのは、彼女にとって原稿を書く段階はすでに「作業」だったからなのではないでしょうか。

 構想を練る、展開を構成する、細かな文言を考えるといった創造的な行為は、例えば家にいるときとか散歩しているときとかに完成していて、頭の中に出来上がったものを原稿に落とし込むという彼女にとっての「作業」はどのような環境でも、紙とペンさえあればできるということだったのではないでしょうか。

 いずれにせよ、素人のできるようなことではありません。とにかく、勉強中は音楽を止めましょう。

—————

戻る


お問い合わせ先

国語道場(西千葉)

稲毛区緑町1丁目27-14-202
千葉市
263-0023


043-247-7115
お電話のお問い合わせは、火~土曜日の午後3時~9時
メールは24時間承っております。