2019年08月20日 19:03

「教科書が読めない子どもたち」に「教科書」を読む練習をさせれば、「教科書」が読めるようになるのか

 新井紀子氏の『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』が出版されてもう1年半以上たちますが、この本が学校のみならず塾・予備校など教育に関係する人々に与えたインパクトは、とても大きなものがありました。このブログでも、出版されてすぐに私は紹介記事を書いています。

 教育現場の人間なら、多くの子どもたちが学校の教科書レベルの文章もきちんと読めていないのではないかという皮膚感覚を持っていましたから、教科書のようにただ事実が書かれているだけの文章を、まずは子どもたちが確実に読めるようにしなければという機運が一気に高まりました。2015年に実施された国際的な学習到達度テストであるOECDのPISAで、読解力について日本の子どもたちの平均点・順位が下がった(←リンク先はPDFファイル)ことが大々的に報じられ、「読解力低下」が叫ばれていたことも背景としてあります。

 来年度より施行される学習指導要領に基づき、2021年度より高校の国語科では、論理国語という選択科目が新たにできます。大学入試センター試験に変わって実施される大学入学共つテストの国語の施行問題に、駐車場の契約書や著作権法についての読解問題が出題されたことも話題になりました。まさに、学校教育や入試、ひいては塾・予備校などの民間教育においても、実用的な文章の読解教育をもっと充実させようという大きなトレンドができていると言えるでしょう。件の新井紀子氏は、こうした流れに批判的な朝日新聞の天声人語の記事をノスタルジーと一刀両断しています

 まあ、教科書レベルの文章も正確に読み取れていない子どもたちがたくさんいるというのは事実なので、現状の国語教育をさらに改良していかなければいけないという議論には、私も賛成です。しかし、実用的な文章を読ませる学習指導を増やせば、実用的な文章を読めるようになると本当に言えるのか?果たしてそんな単純な発想でよいのか、ということについてはちょっと疑問です。

 というのは、実は小説などの文学的文章をよく読む子どもの学力は、これまたPISAの調査によると、読解力も科学的リテラシーも高いことが明らかになっているからです。

 このブログでもしばしば引用させていただいている、教育社会学者の舞田敏彦先生のネットマガジンの記事が、大変よくまとまっています。これについてはリンク先の表もぜひご覧になっていただきたいのですが、舞田先生は「フィクション(=物語のこと。引用者)を読む生徒ほど読解力の平均点が高い傾向にあり、ほとんど読まない群(501点)と週に数回読む群(576点)では、平均点が70点以上も違っています。 小説を読む生徒ほど読解力が高い。これなどは、因果関係と認めてもよいのではないでしょうか」と書いています。つまり、文学的文章をよく読む子供は学力が高いと言って差し支えないということです。

 実際、2015年に実施されたPISAで、読解力において日本の平均点・順位が下がったと書きましたが、とは言え日本は参加70か国中の8位。断然上位であることに変わりはありません。また、OECDが実施している国際的な学力テストにはPIAACという大人版もあって、そちらでは日本の読解力分野の順位は1位。国際的に見て、日本で教育を受けた人間の読解力は、諸外国と比べて明らかに高いのです。学校の教科書レベルの文章も、多くの子どもたちが読めないのではないか。たしかにそれはそうです。しかし、そうだとしても日本人とその教育は、他の国々と比べてみるととてもよくやっているとも十分言えるところがあるわけです。

 こうした国際比較で優位な成績を出したのは、従来型の教育を受けてきた日本人です。だとするならば、これまで行われてきたような、文学的文章中心の材料をだらだら読んでいくような教育にも、それなりに意味があったのではないかとも考えられるのではないかという気がします。

 統計的な調査が行えるわけではないので、あくまで私の想像ですが、文学的文章中心の教育が日本人の読解力をそれなりに支えてきたのではないかという仮説の理由ですが、想像力が鍛えられることがあるのではないかということを挙げたいと思います。

 想像力というとちょっと抽象的に聞こえるかもしれませんが、要は文章に書かれていることについてあれこれ頭の中などにイメージを作って理解しようとする力です。文学的文章、特に小説は物語がありますから、話に引き込まれて、書かれていることをそれなりに考えながら読みますよね。実用的な文章だと、内容は書いてある通りでしょうということで、かえって文章の中身についてあまり考えようとしなくなるところが、人にはある気がします。その点、文学的文章を読む方が、ちゃんと頭を使って考えながら読む習慣をつけるのに有効なのかもしれません。

 そんなわけで、時代は実用的な文章の読解に向かいつつありますが、お子さんにはたくさん文学的文章に触れさせる機会を持たせてほしいなと、私は強く思っています。

 しかし、いずれにしても、学校教育の場では、確実に文学的文章に触れる機会が減ってしまいます。入試でも減るとなれば、多くの塾や予備校でもそうなるでしょう。これって結構危機的なんじゃないかと思ってしまうわけです。

 そこで、国語道場が西千葉地区で独占的に提供している読書指導「ことばの学校」です(^^)

 良書300冊のラインナップの多くが、実は文学的文章です。子ども時代にこれだけ多くの文学的文章を読んでいれば、お子さんの学力・成績向上に大いに貢献すること間違いなしです。

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