2018年12月05日 21:16

「文章中の気持ちなんて、登場人物や作者じゃないから分からない」のか

 今週の「タモリ倶楽部」で、入試に使われた文章の原作者に来てもらって、登場人物などの気持ちを問う問題を解いてもらうという企画をやるらしい。今からひそかに楽しみにしている。

 入試問題における気持ちを問う問題の解き方は決まっていて、あくまで掲載されている文章中に書かれていることをもとに解答を決めることになっている。登場人物のセリフや考え、表情、動作、情景などを根拠に、感情を表す言葉を自分の語彙力の中から選び取って記述するか、選択肢問題なら最も近いものを選ぶというものである。

 だから、入試問題を解くという状況では、「気持ちなんて作者じゃないから分かりません」ということは通用しないことにはなる。気持ちを問う問題を解くというのは、上に挙げたようなルールに基づいた「ゲーム」であるということを理解する必要がある。

 もちろん気持ちというのは感情であるから、何の脈絡もなく表れるということは当然起こりうる。文章中で登場人物が何を話したりしたりしようが、突然それとは全く関係のない気持ちになる可能性は当然ありうる。その意味では、「登場人物じゃないから分かりません」ということは言えるが、それは個人的な読書の時にいくらでも想像すればよいことだ。

 最近の国語の授業でこんなことがあった。

 読んでいた文章は次のようなものだった。

主人公の小学生は、やんちゃが過ぎて校長室の高価な花壺を割ってしまったらしい。校長室で少年と母親が土下座して校長に謝罪している。ところがそれに対して校長は、「学校には子どもが壊して困るようなものなど何もない。そのように謝る必要はない」と二人に告げる。そこで少年の目からは大粒の涙があふれだす。

 この最後の、少年が涙をこぼしたのはなぜかという設問があった。「なぜか」と理由を問う体裁だが、実質的に気持ちを問う問題である。

 この問いに対し、一人の生徒が、

「壺の弁償をしなくて済み、ほっとしたから」

と回答した。

 これは大いにありうる話である。自分のいたずらで、親にも大変な迷惑をかけることになった。いったいどれだけ弁償しなければいけないのだろうなどといった考えが頭をめぐっていただろうし、非常に緊張もしていたはずだ。それが校長の話を聞いてみると、どうも無罪放免になりそうだ。

 これはホッとするだろう。緊張が解けて涙が零れ落ちた。これが本当のところでないとは言い切れない。このような答えを出してくれた子どもの想像力は素晴らしいと感心した。

 しかし、これは、入試問題を解く上では残念ながら不正解とならざるを得ないだろう。なぜか。主人公の少年がほっとしたと断言できるだけの言葉の根拠を文章中に見出すことができないからだ。

 上にも述べたように、国語科の問題を解くということは一種のゲームなのだ。あくまで文章中にある言葉の根拠をもとに答案を作る。そのルールから外れてしまったら、それはポイントにはならないのだ。

 平野啓一郎という作家がこのようなことを書いているのを読んだことがある。それは、彼が高校時代、国語の成績を上げるために、「誤読」を見抜く力を鍛えたということだ。

 「誤読」を見抜く力とはこういうことだ。人はそれぞれ自分なりに文章を読んでいるが、これは、皆それぞれに「誤読」をしているとも言える。国語の成績を上げるためには、問題を作っている人が文章をどのように「誤読」しているかを考えることが大切だ。この、問題製作者が何を「誤読」しているのかを読み解くことが、「誤読」を見抜く力だ。

 上に紹介した読解問題の文中には、少年が花壺を壊す以前に校長先生との次のようなエピソードがあったことが紹介されている。

少年が校内の柿の木から、果実を採ろうとしている。校長は最初少年を注意するのだが、結局柿の実を一つとってやった。少年は校長に感謝する。

 このエピソードに絡めて、「花壺を壊したことを謝罪する少年と母親に対して微笑む校長に対し少年が笑い返せなかったのはなぜか」という別の設問が出されている。これの答えは、「以前柿のことで親切にしてくれた校長が大切にしていた花壺を割ってしまい、申し訳なく思っているから」だ。

 ここで肝心なのは、この問題製作者が、少年は恩義のある校長に対し申し訳ないことをしたと思っている。だから、校長から、よしんば花壺を壊したことを許されたとしても、ただ自分が助かった、よかったよかったなどと自分勝手な感情にとらわれるはずがない。その人物の度量の大きさに感銘を受け、すべからく感謝の念が催されるべきであると考えていることを見破ることだ。

 よって、先ほどの問題の「正解」は、「校長の人物の大きさに感動し、深く感謝したから」ということになる。

 このように、入試で「気持ち」を問う問題とは、感情移入して読む力を問われているのではなく、あくまで文章中の言葉を根拠とした一種の論理的思考力を見るものだということを理解する必要がある。

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