今からでも遅くはない、厳しい「しつけ」は百害あって一利なし
NHKスペシャルで発達障害について放送されて、それがたいへん反響を呼んでいるようですね。一部で戦前回帰のような流れもある中で、個々の子どもの成長についての日本社会の理解は、ここ10年くらいでとても進歩したように感じられます。
「ドラえもん」ののび太のママさんなんて、昭和時代の原作のまま今テレビで放映したら、これって虐待なんじゃないのと思う人も結構いるんじゃないでしょうか。
この「ガミガミ」がいいですね。子どもからすると怒られている中身なんて無いに等しい。聞いていないし、聞く気もない。ただ、いかにこの時間をやり過ごすか。親の厳しい叱責なんて教育効果がゼロであることが、この1コマでよく描かれています。
小学校のテストで0点を取りまくるのび太君は、現代風に考えれば明らかに個別的ケアが必要な子どもですが、そんなことに思いも至らなかった昭和40~50年代、ただもう「本人にやる気がない」という理由で周囲の大人からくそみそに怒られる。結果、自己肯定感のかけらもなく、自分で自分がどうするかを考えたり決めたりしようとも思わない人間になっています。
「ドラえもん」のキャラ設定って、本当によくできているなと思います。ベースがギャグマンガなので極端ですが、のび太は上に述べたような感じで、友人に暴力をふるいまくるジャイアンの親はやっぱり粗暴に描かれていたりとか。「オバQ」にしても「パーマン」にしても、藤子・F・不二雄さんの漫画には多くの子どもたちが出てきますが、子どもの個性に対する親の個性が端的に描かれているのは「ドラえもん」です。親の性格描写にまで遡ることで生まれてくるリアリティが、「ドラえもん」を他の作品よりもよりメジャーなものに押し上げている要因なのかなという気がします。「オバQ」の正ちゃんも「パーマン」ミツ夫も普通の子ですからね。親もあまり個性的じゃないです。
ところで、のび太のママの叱責ですが、「あんなのが虐待?普通のしつけの範囲じゃないの?」と思われる方も半分くらいいらっしゃるのではないでしょうか。
総じて、日本の親御さんは子どもの叱り方が、他の先進諸外国に比べて厳しい傾向にあるんじゃないかという印象を私は持っています。
そう思うようになったのは、千葉女子高校オーケストラ部の山岡先生から次のようなお話を聞いてからです。
千葉女子高校オーケストラ部は、3年に1回のペースでドイツなどヨーロッパに演奏旅行をします。遠征中、現地の学生オーケストラと合同で練習をするそうなんですが、そこで日本人の指導者が、現地の子どもに少々厳しめに注意してしまうと、本当にしょげ込んでしまい、場合によってはそのまま帰ってしまうこともあるということでした。かの地の親は子どもを厳しく叱責するということがほとんどないのではないかということでした。
それに対して日本では、読売新聞が行った2013年に行った調査では、「体罰は必要か」という問いに対し、「そう思う」・「ややそう思う」と回答した成人が6割に上ったということです。
厚生労働省は先月、「愛の鞭ゼロ作戦」と称するキャンペーンを開始し、全国に啓発パンフレットを配布しています。曰く、「体罰・暴言は子どもの脳の発達に深刻な影響を及ぼし」、「体罰は百害あって一利なし。子どもに望ましい影響などもたらしません」、「体罰や暴言による「愛の鞭」は捨ててしまいましょう」。
パンフレットでは、小児科医の友田明美氏の研究が紹介されています。
それによると、体罰や暴言は、子どもの脳に物理的なダメージを与えるということです。よく、「子どもの心を傷つける」などと比喩的に言われることがありますが、脳の研究の進歩により、体罰や暴言によって本当に脳の特定部位が小さくなったり、変形したりする。文字通り「傷つけている」ことが分かってきたのですね。
人体にはもともとストレスから脳を守るために化学物質を分泌し、視覚や聴覚に関する脳の部位が周囲の情報をあまり感受しないようにしてしまうというメカニズムがあり、大人から暴力・暴言を受け続けるとこの機能がずっと作動してしまうことでこれらの脳の部位が小さくなってしまうと考えられるということです。
友田明美氏についてググってみると、Youtubeに一般向けの講演の動画が上がっていました。素人向けにかみ砕いて上のような内容を分かりやすく説明しています。
動画の中でそれとは別に私が興味をひかれたのは、「虐待を受けた子どもはほめられてもうれしいと思えなくなる」というところです。
ほめられ下手というのは、日々子どもたちと接する中でも思い当たるところはありますね。日常の学習の中やテストの結果など、よいところがあれば大小にかかわらず国語道場ではほめるのですが、それに対して無反応であったり、よかったところではなくてわざわざよくなかったところを自分からあげつらって自らを卑下したりしてしまうお子さんは結構います。
まあ、塾の人間が接している範囲のお子さんで一般的な意味での虐待を受けているケースというのはほとんどないと思いますが、上に述べたように日本のしつけは一般的なレベルでも他の先進諸国に比べて厳しすぎる傾向があるので、実際には虐待に近い対応になっていることもありうるのでしょうか。テストの結果が帰ってきては悪かったところばかり指摘する傾向がある親御さんは、注意が必要かもしれません。
また、上記の厚労省のパンフレットには、暴力的な「しつけ」が、子どもの自立どころか問題行動に結びつきやすい点を指摘しています。
ある大手塾さんの中学受験部門では、生徒のカンニング防止や生徒間の攻撃的な行動の監督・予防がもはや業務の一つだと聞いて驚いたことがありますが、子どものこうした問題行動の背景には、一部の親による虐待に等しい子への接し方が背景にあるのかなと想像します。
暴力的なしつけというのはつまるところ口先やゲンコ一発で人間を改良できるという安易な発想に過ぎないということです。
こんなことを書いている私自身も、もともとは子どもにかなり厳しいことを言ったり、「言うことを聞かない」子どもを張り倒したりしていたものですが、時代の流れや最新の科学的知見を知って、かなりマイルドになりました。いや、まだ厳しい方かな(^^;
子どもたちに大人として何か働きかける立場--親や教師--であるならば、自分自身がまず学び、変わっていかなければなりませんよね。ともに頑張っていきましょう!
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