2020年02月07日 22:37

国語は「よい子」が嫌い

 突然ですが、国語という教科は何の力を見る教科だとお思いですか?

 漢字や文法など、いろいろな分野からの出題もありますが、なんといってもその中心は読解力を見ることにあります。まあ、これは当たり前のことですよね。

 読解力とは書いてあることを客観的に読み取る力のことです。読解力を問う問題では、受験生の考えや意見は聞かれていません。また、道徳ではありませんから、書かれていることの「善悪」や「正しさ」もどうでもよいことになります。とにかく、客観性だけが重要です。こうしたことは当たり前のようですが、なかなか子どもたちには難しいことだったりします。

 その読解力を測るために、テスト出題者は様々な解答形式で問題を出してきます。様々な問題形式の中で、今回は選択肢式問題の一つの例について書きたいと思います。選択肢式とは、言うまでもないことですが、問題に対して答えの候補が4つとか5つとか用意されていて、それらには番号や「ア・イ・ウ・・・」などと記号が付されていて、答え方としては解答欄にその番号や記号だけを記入するというものです。

 こういう出題形式で、受験生の読解力を測るにはどうしたらよいか。いろいろありますが、その一つとして、「よい子」をひっかけるというものがあります。「あります」というか、誰もそんなことを公言して入試問題を作っているわけではないのですが、子どもたちの読解力を鍛えるために様々な入試問題を見てきた者として、この「よい子イジメ」といってもよいようなジャンルがあると言ってもよいと考えています。

 最近あった問題では、ある詩を読んで、その中の文言に込められている作者の思いを選択肢から選べというものがありました。詩は、宮沢和史の「つばき」で、設問は作者が自分の娘(つばきさん)に対して呼び掛けている「君の命は 君だけのもの/純白の未来に さあ漕ぎ出せ」という部分に対するものです。

 一人の生徒が、「きれいな心を持ち、人に愛されるような幸せな人生を歩んでほしい」という選択肢を選びました。もちろん×です。

 詩の文言からも明らかなように、作者にとっての最高価値は、一人の人間としての娘の自由意志です。ですから、極端な話、仮に娘が世間一般から見て「悪」であるとか「不幸」とされるような人生の選択をとったとしても、父親の自分はその選択は最大限尊重することになるだろうということが推察されるわけです。逆に、「こんな人間になってこんな人生を送ってほしい」などという枠組みを娘に提示するようなことは、全力で避けるだろうと考えられます。したがって、この問題の正解は、「自分にしかない人生を、自分自身の手で選び取ってほしい」という選択肢でした。

 では、なぜこの生徒は、上の不正解の選択肢を選んでしまったのでしょうか?

 それは、この生徒から見てよいことを言っているように思われたからというのが一番大きい理由でしょう。まあ、娘に対して親はその幸せを願うものなんじゃないのという思い込みが頭の中にあって、それで選択肢を見てみるとそれと同じようなことが書いてあるものがあった。これがワナなんですが、まんまとそれに引っかかってしまう。よくよく考えてみると、選択肢を選ぶ段階で、もともとの文章を客観的に考えるという行為から完全に離れてしまっています

 「『よい子』をひっかけるだなんてひどい」と思われる人もいるかもしれませんが、そうではありません。勘違いをしてはいけないのは、入試を行って入学者の選抜を行うのは、高校や大学といった高度な学問や研究を行う機関です。世の中を「善く」するための倫理団体ではありません。このような国語の問題は、高度な学問・研究を行う機関で学ぶ人間として適正かどうかを判定するためのものです。

 上の例で言えば、ここには大きな価値観の対立を見て取ることができます。一つは、親は自分の娘が人から愛されて幸せな人生を送ってほしいと思うべきものだろうというものです。もう一つは、子どもを自由意志を持った個人として尊重するべきだというものです。

 読解力があることによって、これまで自分は「親ってこんなものでしょう」といった考え方しかできなかったけれども、一人一人の人間を自由意志を持った存在として尊重するという考え方があるということを理解できるようになります。読解力がなく、自分の浅薄な見地から抜け出せない人は、いろいろな人の話を聞いて理解してより広い知見を手に入れたり、そこからさらに新しい発想を生み出したりすることができません。厳しいようですが、「よい子」から抜け出せない人を、国語という教科がスクリーニングしていると言えるかもしれません。

 国語道場では、国語の問題の考え方を根本的からお子さんたちに指導しています。それによって、高等教育機関の学校で学ぶ者としてふさわしい知的能力をお子さんに身に着けることを目指しています。

—————

戻る


お問い合わせ先

国語道場(西千葉)

稲毛区緑町1丁目27-14-202
千葉市
263-0023


043-247-7115
お電話のお問い合わせは、火~土曜日の午後3時~9時
メールは24時間承っております。