2017年08月09日 15:59

塹壕戦のクリスマス

 夏休み真っ最中ですが、第2回定期テスト・前期期末テストまで残り30日前後という時期でもあります。

 夏休みは、本来ならば弱点克服のための復習にフルに時間を使ってあげたい時期なのですが、千葉市は夏休み直後に定期テストを実施しますので、国語道場としてもその対策を復習と同時並行に実施しなければなりません。

 現在千葉市の公立中学校が採用している2年生の国語教科書に『世界で一番の贈り物』という大変美しい短編が掲載されています。今回、緑町中の第2回定期テストの試験範囲にこの物語が入っています。

 クリスマスの前日、「僕」は、焼かれたり水をかぶったりした形跡のあるアンティークの机を古道具屋で手に入れる。それには隠し引き出しがあって、その中にあったブリキの箱に一通の手紙がしまわれていた。その手紙は、第一次世界大戦の西部戦線に従軍したイギリス人兵士が妻に送ったものだった。手紙に書かれた住所を頼りに、「僕」がその宛名人の兵士の妻を訪ねてみると・・・。

 中学2年生のお子さんを持つ方、ぜひお子さんの教科書をお読みになってみてください。とても素晴らしいお話です。

 今回緑町中の定期テスト範囲ということで、同校の生徒にはこの文章の読解・問題演習の指導を行っているのですが、子どもたちはいま一つ作品の背景や読み解きのツボが分かっていないなあという印象です。まだ学校でも授業が進んでいないようなので、道場ではできるだけ詳しく解説しています。

 「贈り物」というのは、もちろんクリスマスプレゼントです。手紙の主の兵士は、敵とのにらみ合いが続く厳しい前線における奇跡のようなある出来事を妻に知らせています。兵士にとってその出来事は最高のクリスマスプレゼントだったでしょうし、そんな素晴らしい出来事がつづられた手紙は妻にとって最高のプレゼントだったでしょう。何年も経ってその手紙を偶然発見した「僕」は、それをその兵士のすでに年老いた妻に届けるのですが、それも偶然クリスマスの日だったことになっています。それもまた、彼女にとって「世界で一番の」クリスマスプレゼントであったと言えるでしょう。

 こんな風に、前線の兵士、銃後の女性、一人寂しく老後を送る女性、偶然こうした人々の生きざまに触れることができた「僕」と、様々な人にとっての「世界で一番の贈り物」がいろいろな形で絡み合っています。

 先ほど、「僕」が手に入れた机は、火に焼かれて水をかぶった形跡があると紹介しましたが、このことはこのお話の謎解きの重要な伏線になっています。

 このように短いながらも非常に凝った作りになっていて、一読してこれはすごい作品だぞと思わせるものがあります。

 子どもたちは、あんまりそういうややこしいことは考えずに、ただストーリーだけを追って、分かった気になってしまうところがあります。そこで、私が上に挙げたような物語の構造やなぞ解きを解説をするのですが、そうすると「そうだったんですか(゚д゚)!」と感激してくれます。

 8月は日本人にとってやはり戦争について考える月間でありますが、第一次世界大戦がどんな戦争だったのか知ることも大変有意義でありましょう。同時に、「世界で一番の贈り物」の背景を知るうえで役に立つと思います。

 現代の日本人にとっては、第二次世界大戦のインパクトが大きすぎるせいか、第一次世界大戦は少し印象の薄い過去の出来事といったところがあるかもしれません。しかし、ヨーロッパ各国の人々にとっては、この戦争は本当に悲惨なものでした。

 その悲惨さを挙げていけばきりがありませんが、「世界で一番の贈り物」の作品の背景を知るために、塹壕(ざんごう)での戦いを知っておかれるといいでしょう。

 第一次世界大戦のころには銃砲の性能が格段に向上していました。ですから、平地をふらふら歩いていると、たちまちバシバシ撃たれてしまいます。

 そのため、兵士の身を守り、敵の前進を食い止めるために、塹壕という溝を掘ります。深さは、兵士が立っても頭までしっかりと隠れるまであります。

 この塹壕を敵味方双方が並行して掘っていくわけですが、第一次世界大戦の時は独仏国境に沿って、南はスイスとの国境に始まり、北は海に達するまで伸びていきました。

 塹壕は大変強固な防御ですが、お互いにこういうものを作ると勝敗がなかなかつかないことになります。そうすると戦争が大変に長引きます。そのため、兵士によってはこの土の溝の中に何か月も生活しなければならなくなるものも大勢出てきます。

 考えても見てください。狭い土の溝の中に何万もの兵士が詰め込まれ、そこで起居し、食事をし、排せつをします。溝の外に頭を出せば、直ちに敵から銃弾が飛んできます。そんな中での生活なんて、ちょっと考えただけでも息苦しくなりますね。塹壕生活は当然のように兵士たちに精神的な大変なストレスになります。

 上に「敵とのにらみ合いが続く厳しい前線における奇跡のようなある出来事」ということを書きました。これは何だったのかというと、最前線の兵士たちによる自主的なクリスマス休戦です。

 塹壕生活に疲れ切った兵士たち。クリスマスが近づくと、せめてその間くらいゆっくりと過ごしたいという気分になります。連合軍・同盟軍双方の塹壕でそのような雰囲気になり、敵味方を超えてのクリスマスパーティーが行われたところがあったようです。

 ちょっと探してみたところ、まさにぴったりの動画が見つかったのでご紹介しておきます。違法アップロードっぽいですが・・・。ご参考までにご覧になってみてください。

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