2019年04月09日 20:58

塾も美容整形外科も、プロの仕事は願望の最適化

 2年以上前の記事ですが、高須クリニックの高須克弥さんのインタビュー記事が非常に面白かったので紹介します。高須さんというと、政治的な発言ではあんまり感心しないことが多いんですが、自分の専門となると話も大変説得力があります。プロたるもの、顧客の希望に何でもかんでも無条件にはいはい従っているようではダメだと言います。

マトモな医者であれば、いくら患者がリクエストしても断るよ。でも、安さをウリにしてたり、オープンしたばかりの美容整形外科クリニックの中には患者さんの言いなりになっちゃうところもある

 人の顔の「美しさ」とはバランスの問題なんだそうです。目が小さくても顔の造作が全体的に小作りでまとまっていれば「美しく」見える。だから、整形するなら全体をいっぺんに変えるようにしないと本来はいけないということです。顔のパーツが小作りな人が、例えば目だけ大きくするとか鼻だけ高くするようなことをすると、何ともおかしなことになっちゃう。

“自分の言うことを聞いてくれるのがいい医者”と思い込んで、とんでもない顔になってしまった人たちが泣きながら、次々にやってきましたよ

 しかし、とにかく鼻をとても高くしてほしいみたいなリクエストをする患者に対して、言いなりになってしまう医師がいる。そしてその通り施術することで、変な顔になってしまったり、修正のために整形を繰り返さなければいけなくなることが多いんだそうです。

患者さん自ら美容整形手術の陣頭指揮をとっていいことは何もありません。一流ブティックに、自分で起こした型紙を持ち込んで『この通りに作って!』と強要してるようなもの。天下のシャネルだって、『全力は尽くしますけど、奥様のデザインですか……』って絶句するでしょう

 プロの美容整形医なら、きちんと伝えることを伝えて、それでもNoという患者さんならきっぱり断れと。まあ、その通りですよね。

 いったいこの塾長は何だって整形の話をしているんだと思われるかもしれませんが、顧客の「希望」をなんでもかなえようとすることがプロとして正しいことではないんだぞという話は、塾でも大いに当てはまるところがあるなあと思ったのでした。

 もう10年も前の話なので書いちゃってもいいですかね。お子さんをどうしても某附属中に入れたいといって来られた保護者の方がいました。

 しかし、本人に模試を受けてもらってみると、学力が全然足りない。そもそもその基礎となる国語力が弱い。これでは中学受験用の教材なんてとてもこなせません。

 そこで私は、まず当面は今現在の本人の学力に合った教材を使って基礎基本を徹底する指導をすると、面談でその旨親御さんにお伝えしました。入試の直前期まで基本中心に学習して、とにかく基礎学力を伸ばす。そしてその後に過去問を使って練習して、取れるところを取れるようにする。合格のチャンスがあるとすればこれしかないという作戦でした。

 このようにやっておけば入試では失敗したとしても、基礎学力が伸びますから、地元の中学に進学することになっても成績上位に入ることができるようになるでしょう。そうすれば、高校でリベンジも可能だという二段構えの計画でした。

 しかし、実際学習指導を進めていくと、親御さんからクレームの嵐。「こんな簡単なものばっかりやらせていたら、入試に間に合わないだろう」なんてことを電話やメールで三日と開けず言ってこられました。

 「いやいや、中学受験用のテキストなんか今使ったら、それこそ一歩も前に進めなくなっちゃいますよ。それよりも、この通りやっていった方が着実にお子さんの学力を伸ばせますから」と説明しても、一向にご理解いただけませんでした。

 最終的には当方ではお引き受けできないということでやめていただきました。このときに基礎基本をしっかりとやっていれば、中学でもっと伸びる素地ができただろうにと、今でも本人には気の毒に思うことがあります。今でも、基礎基本を小学生のうちにコツコツとやっていれば後々もっと伸びるはずなのに、ムリムリ中学受験勉強をやっているお子さんも結構いるのかなあと想像します。

 大切なのは、お子さんの長い人生の中で意味のある学習指導をしてあげることなんですよね。そのためには、一人一人のお子さんについて常にその時点で適切な指導をしてあげることです。今はまず正しい学習習慣を身につけさせる時期だとか、今はもっといろいろなタイプの問題に触れさせる時期だとか、指導者が見極めて、施していくということです。

 お子さんの射程に入ってこないような「理想」を思い描いて、そのためには何とかシリーズだとか何々自在をやらせなきゃだめだとか、本人の成長と関係のないことに情報過多になって、そして無理やり子どもをそれに合わせようとするのがいちばんダメで、そういうことをするから子どもがつぶれちゃうんですよね。人間は自分なりにしか成長できないということを、一人でも多くの親御さんに気づいてもらえるといいなと思います。

—————

戻る


お問い合わせ先

国語道場(西千葉)

稲毛区緑町1丁目27-14-202
千葉市
263-0023


043-247-7115
お電話のお問い合わせは、火~土曜日の午後3時~9時
メールは24時間承っております。