2019年10月22日 23:37

子どもの「分からない」、「難しい」を恐れるな

 日曜日は、あきこさんと小6の娘と一緒に、蘇我の映画館で話題の映画、『蜜蜂と遠雷』を見に行きました。主人公亜夜(松岡茉優)が弾くピアノを実際に担当しているのが、私の大好きなピアニストの河村尚子さんだと聞いて、かねて見たいと思っていたのでした。

  う~ん、映画としては正直微妙。皆それぞれに自分だけが奏でられる音楽を見つけられましたっていうテーマなんでしょうけれども、総じて弱い。おっと思わせるような場面は所々出てくるんですが、それぞれが映画全体を支える構造を形作るまでには至っていないと思いました。映画最終盤、バルトークのピアノ協奏曲第3番で盛り上がっていって、プロコフィエフのピアノ協奏曲第3番のワクワク感で押し切られて、そこそこ満足感はありましたが。

 劇中、ドビュッシーの『月の光』というピアノ作品がちょろっと出てきます(アレンジは少々イラっとするものでしたが)。この曲自体大変な名曲なので、大好きだという方もたくさんいらっしゃるでしょう。私にとっては、たんに好きだというだけでなく、教育について重要な示唆を与えてくれたという点で、とても思い出深い曲です。

 わたくしが小学校低学年だった時、『トルコ行進曲』が大好きでした。モーツァルトのピアノソナタ イ長調 K.331の第3楽章なんですが、そのころはそんなことも知らずにただ大好きで、聞くともうワクワクする気持ちが止められなくなったものです。どうしても家で『トルコ行進曲』が聞きたいということで親にねだりまして、ピアノ名曲集のカセットテープを買ってもらいました。1曲目にこの『トルコ行進曲』が入っていまして、自宅のステレオで再生した時には、うれしくてぴょんぴょん飛び跳ねてしまいました。

 しかし、『トルコ行進曲』1曲では商品になりませんから、このカセットテープには様々な時代の作曲家のピアノ商品が収録されていました。ベートーヴェンの『エリーゼのために』、シューマンの『トロイメライ』、リストの『愛の夢第3番』などなど。誰もが一度は聞いたことがあるような名曲です。その最後に、ドビュッシーの『月の光』(ベルガマスク組曲第3曲)が入っていました。

 いや、まあ、こちらとしてはとりあえず『トルコ行進曲』が聞ければそれでよかったのですが、なにぶんカセットテープ。何度も巻き戻したり早送りをしたりするとダメになってしまいますから、あんまり興味がない曲が流れていても、とりあえず我慢して最後まで再生していました。そして最後の『月の光』が流れるときは、いつもうとうとと眠っていました。

 こんなことが何年か続いていました。自分もよく同じカセットテープを何べんも聞いたなと呆れます(^^;

 多分小学生の高学年になったころだと思います。いつものようにステレオから流れてくるいつもの曲を聴きながら、これまたいつものようにうとうととし始めていました。

 その時、聞こえてきたのです。何が?『月の光』です。

 いや、流れているのはいつも流れていたのですが、「聞こえて」いなかったんですね。それが何べんも何べんも耳に触れているうちに、ある時突然その音楽を聴きとれるようになるんですね。

 「ああ、なんてい曲なんだ!なんでこのことに今まで気づかなかったんだろう。」

こたつの布団の中で眠りかけていたところ、急に精神が覚醒して、ドビュッシーのサウンドに心を奪われてしまったことを思い出します。

 この時以来この『月の光』が大好きになったのは言うまでもありませんが、それだけでなく、人間ちょっとやそっと見たり聞いたりしたくらいでは、その良さ、面白さ、大切さがわからないことってあるんだなということを学びました。

 勉強で問題を解くなんてことは、ドビュッシーを知ることに比べれば簡単なことですけれども、それでもすぐに分からない、難しい、できないなんてことはありますよね。でも、それっとそんなに大騒ぎするようなことじゃないと思っています。というか、その「分からない」っていう経験が大事なんじゃない?というのが私の持論です。

 最近、若い親御さんで、すぐに「子どもが難しいと言っているんですが大丈夫でしょうか」なんて慌てられる人が、以前よりも増えているような気がします。大人が子どもと同じ水準でおろおろするようでは、なんとも心もとないと思ってしまいます。やはり、自分の人生経験を生かして、「今難しいと思うようなことでも、頑張っていれば分かるようになる時が来るんだよ」くらいのことは言ってあげてほしいものです。

—————

戻る


お問い合わせ先

国語道場(西千葉)

稲毛区緑町1丁目27-14-202
千葉市
263-0023


043-247-7115
お電話のお問い合わせは、火~土曜日の午後3時~9時
メールは24時間承っております。