2016年11月28日 12:56

東ロボくんが教えてくれたこと~国語ができない人の「勉強法」

 今月の半ば、東大合格を目指し開発が進められてきた人工知能(AI)「東ロボくん」の開発が中止されるというニュースが流れてきました。当初の計画では、今年中に選択式の大学入試センター試験で高得点をとれるようにするということだったようですが、その目標達成が困難であることが原因のようです。直近の進研模試の8科目の偏差値が57.1と、そう悪い成績でもないのですが、去年と比べてほとんど成績が上がらなくなってしまったそうです。

 なぜ東ロボくんは「伸び悩み」に陥ってしまったのでしょうか。

 最大の原因は、国語や英語の読解問題でこれ以上成績を上げる仕組みを、今のところAIで作ることが不可能だからだということのようです。確かに、国語は200点満点中96点(偏差値49.7)、英語は200点満点中95点(偏差値50.5)と、ほかの教科に比べて成績が悪く、伸びていません。

 では、どうして東ロボくんは読解問題が「苦手」なのでしょうか。それは、東ロボくんがやっていることは、つまるところ国語ができない人の勉強法そのものだからだと言えると思います。

 解説記事によると、東ロボくんは、どうやらコンピューターの検索技術を使って、問題を解いているようです。

 どういうことかと言いますと、例えば

「文中の空欄に当てはまる言葉を選べ。~1854年、幕府はペリーと日米和親条約を結び、(    )と函館の2港を開港しました。1. 下田、2. 神奈川、3. 長崎、4. 新潟」

という問題が出た場合、東ロボくんは膨大な文字情報に、「1854年」、「日米和親条約」、「開港」といったキーワードで検索をかけます。そしてその説明文章と問題文とを照応して浮かび上がる「下田」という答えを導き出すということのようです。

 ここで重要なのは、東ロボくんは正解は出せても、「条約を結ぶ」とか、「開港」とはどういうことかが分かっているわけではないということです。ひたすらキーワードを追って、文章に書かれている内容はともかく、答えとして当てはまりそうな言葉を選んでいるだけだということです。

 このことを知って、私は、ああ、これって国語ができない人の「勉強法」というか問題の解き方そのままじゃん、ということに気が付きました。

 国語ができない人の問題の解き方というと、選択問題だったら、本文に出てきた言葉がもっともらしく入っている選択肢をなんとなく選ぶとか、記述問題だったら、文章中に出てくるなんか大事そうな言葉をとりあえず書き抜くとか、そういうところがありますよね。

 とにかく何が書いてあるのか理解しながら読むということをしません。ただそれらしい言葉を拾って、書き出すだけ。

 こんな「勉強法」をとっている限り、文章が読めるようにも国語の成績が上がるようにもなるはずはありません。東ロボくんの問題の解き方が、まさにこの国語ができない人のやり方そのものですから、これ以上の開発を断念したというのは賢明な判断だったと言えるでしょう。

 国語道場に初めてお問合せになる方から、「国語はどういう指導をしていただけるのですか?」といったお尋ねを頂戴することがあります。

 私は、常々、「書いてあることをちゃんと読むように指導します」とお答えしています。

 これって、何か「読解力」をつける特別なテクニックを教えてもらえるんじゃないかなどと期待している方には、拍子抜けする答えだろうなあと思いながら、それでもそう正直にお答えしています。

  国語道場の国語の指導の中核は、生徒が出してきた答えの根拠を問い、本文に書かれていたことを生徒本人の言葉で説明させるといった負荷をかけることにあります。それを通して、何が書かれているのか考えながら文章に当たり、自分の答えもなぜそれが答えになるのか常に考えながら問題に向かうようにしていきます。

 だいたい、何か「読解力」をつける特別なテクニックがあるんじゃないかなんて間違った観念は、東ロボくんと同じ失敗に陥るということに気付いてほしいですね。

 そもそも文章を読解するということは、自分の頭で書かれていることをいちいち理解しながら読むというだけのことです。その姿勢は、易しい内容の実用的な本でも、大学入試に出るような論説文でも同じでよいのです。

 それなのに、文章が難しいからといって、書かれている内容を理解しながら読むのではなく、なんだか大事そうなキーワードとやらを拾い読みしていく「テクニック」のようなものを「駆使」したって、それは読めるようになどならないし、成績だって上がるはずがないわけです。

 このことを東ロボくんが実証してくれました。あらゆる教科書や膨大な参考書類のデータをため込んだ頭脳に検索をかけても、キーワード拾い読みでは大した成績が出ない。人間の頭脳では到底まねできない記憶量をもってしてもこうなのですから、もはやこれ以上このような「テクニック」の習得を目指すのは無駄であることを知るべきです。

 素晴らしいのは、コンピューターのようにあらゆる教科書や膨大な問題データなどを記憶することができない人間が、国語だったらそのコンピューターよりもはるかに優れた成績を収めることができることです。

 子どもたちには、一つ一つの文について行きつ戻りつ、指でなぞるように理解をしながら読むこと、自分の答えには、間違っていてもいいからこのように考えたという根拠を持つこと、こうしたまともな文章読解の姿勢を学び、その結果として成績アップに結び付く勉強をしてほしいと願っています。

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