2019年06月23日 14:31

長時間の勉強は本当に「効率が悪い」のか?

 時まさに第16回チャイコフスキイ・コンクール真っ最中であります。

 チャイコフスキイ・コンクールは、世界で最も権威が高い芸術音楽演奏者のコンクールの一つと言われております。今回、ピアノ部門では、藤田真央さんという日本出身のコンテスタントが活躍しています。現在決勝ラウンドまで進出。

 コンクールの様子は medici.tv というフランスのクラシック専門インターネット配信サイトでタダで全部見られます(゚Д゚;) 機械の体がタダでもらえる星が近づいたかのようです。昨晩から聞きまくっています。

 それにしても、本当に大丈夫なんですかね、日本。コンサートのネット配信において日本は本当に遅れていて、NHK交響楽団のような国内で最も有力な団体でも試験的なことしかやっていない状況です。一方でドイツのベルリンフィルハーモニー管弦楽団は、自前の配信サービスを持っていて、世界中に定期演奏会の「会員」を集めていたりします。このままいくと、 medici.tv のような海外のプラットフォームに乗っけてもらうしかなくなるんじゃないでしょうか。

 チャイコフスキイ・コンクールの配信サイトは3つの言語に対応しています。1つはもちろん英語、2つ目は開催国のロシア語、そして3つ目は華語(簡体)。日本の存在感がどんどんなくなっていくのは、20世紀末の「ジャパン・アズ・ナンバー・ワン」の時代を知るものとして、何とも寂しものがあります。

 それにしても、世の中には楽器の上手な人がたくさんいるものです。そんな中でライバルたちとしのぎを削って、一流奏者として生き残っていくことは並大抵のことではないでしょう。

 世界的な国際ピアノ・コンクールに、ポーランドで行われるショパン・コンクールというものがあります。その審査委員長を務めたアンジェイ・ヤシンスキさんというピアニストのセミナーに参加した人からこんな話を聞いたことがあります。なんでもそのセミナーの最中、ヤシンスキさんが鉛筆一本でショパンの幻想即興曲のメロディーラインを見事に実演して見せたということです。曰く、「ピアニストたるもの、これくらいのことができるようになるところまで練習しなきゃだめですよ」と。

 私の大好きなピアニストで、千葉市出身の髙木竜馬さんという人がいます。渋幕出身という珍しい経歴の方で、昨年ノルウェイのグリーグ国際コンクールで優勝、NHKアニメ「ピアノの森」で登場人物のピアノを担当するなど、現在最も活躍しているピアニストの一人です。その髙木さんが、NHKのあるテレビ番組で、練習は1日14時間やると言っていました。

 「14時間」と聞いてちょっと驚きましたが、でもクラシックのピアノ作品なんて1曲で30~40分あるなんてのは珍しくないわけで、それを完璧に、子どもの発表会みたいにミスするかしないかなんてレベルではなく弾けるようになるまで練習するなら、1~2時間の練習では到底足りないのも当然のことです。自然に10時間とかそれくらいの練習時間になるものなのでしょう。

 一流の音楽家のこういう努力の話をあれこれ聞いているうちに、勉強時間に思い当たりました。

 どうでしょう。皆さんは、「長時間の勉強は効率が悪い」といった言説を、お聞きになったことはありませんか?こういう話って、いかにもまことしやかに伝えられるものですけれども、実際どうなんでしょうね。

 私に言わせれば、こんな言説は、潜在的に勉強嫌いな連中がもっともらしく伝えている、あまり根拠のないデマの類です。どうも世の中、「勉強ばかりしているのはよくないことだ」みたいな思い込みがあるではないですか。こういうのは、つまるところ世の中には勉強嫌いな人がたくさんいて、本音では「勉強なんかしたくない」と言いたいところなんだけれども、それじゃあんまりみっともないので、「勉強ばかりするのは、心にも体にもよろしくない」といったもっともらしく装った言説として表れているんものなのではないかと思っています。

 この「長時間の勉強は効率が悪い」的な言説がもっともらしく思われるのは、東大などの非常に高学歴な人がそのようなことを言うからということがあるでしょう。

 しかし、これはあまりうのみにはできない考え方かなと思います。

 なぜか。ここに非常に知能の高い人がいて、その人があなたの勉強を見ているとします。あなたが何時間もかけて四苦八苦しているのを見て、「何か効率の悪いことをやっているんじゃないのか」と言われたら、どうですか?そんなものはあなたにとって何の参考にもならないでしょう。「あなたには簡単に見えるかもしれないけれども、私にはそうではなくて、これだけ労力と時間をかけないとできないことなんだよ」としか言いようがありません。このように、知能の高い人が、「長時間の勉強は効率が悪い」というのは、多くの人にとっては何の参考にもならないことに注意する必要があると思います。

 また、長時間の勉強をしたことがある人にも問題がある可能性があります。

 例えば、普段全然勉強しない人が、ある時思い立ってぶっ続けで何時間も勉強をすることがあったとします。その人は、結局その後勉強を続けることはなく、学力も成績も伸びなかったとしましょう。そういう人は、その長時間の勉強についてなんと言うでしょうか。

「やっぱり、長時間の勉強は効率が悪い。何の意味もなかった」

などと言うのではないでしょうか。

 いずれにしても、「長時間の勉強は効率が悪い」言説については、私は非常に胡散臭いと思っております。お子さんにはどんどん、何のためらいもなく長時間の勉強をお勧めくださいと申し上げたいです。

 ショパンのエチュードを弾けるようになりたい、千葉高に入りたいでも何でもいいのですが、目標に対してやらなければいけないことはある程度明らかなわけです。それをやりこなすためには「〇〇分以上の勉強は集中力が持たずに非効率的だ」とかそんなことを言っている場合ではありません。何時間でも何日でも何か月かかろうがやることをやらなきゃだめでしょということです。

 やるべき勉強や練習もせずに、成績が上がらないなどと言っているようでは、そもそも話にもなりません。

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